血管の病気

大動脈瘤

大動脈の直径(太さ)は胸部で約3cm、腹部で1.5cmですが、それが倍以上にふくれた時(拡張)した場合に動脈瘤といいます。これは動脈の壁が年と共に脆くなり拡張してくるので、動脈硬化が原因と言われてきましたが、最近はそれだけでは説明できないため原因として変性疾患という表現が使われています。大動脈の直径が倍に拡張した後は、5mm/年の割合で拡張が進みます。放置するとさらに拡張し、やがては破裂して大出血し、急死します。破裂するまでは症状がなく、痛くもかゆくもありませんので、本人は気がつきません。破裂した後の緊急手術では死亡率が約50%以上に昇りますので、一定の大きさになったら、症状がなくても手術が勧められます。手術をする大きさの目安は胸部大動脈瘤では5.5cm、腹部大動脈瘤では4〜5cmです。いずれも準備をして手術を行えば死亡率は8〜5%以下にとどまります。

診断は?

最近はCTの普及により、何らかの検査で偶然発見される場合が少なくありません。お腹の大動脈瘤で4cmに満たない場合は、手術をしないで拡張してくるかどうかを経過観察します。それは年1回のCT検査で十分です。もし前年よりも明らかに大きくなっている場合や4cmを超えた場合には放置すると一年以内に破裂する可能性が10%以上になります。80才以上の方で血圧が高くなく、あまり活発に動かれない人では手術をしないで経過をみることもあります。しかし70代前半以前でまだ日常生活上、活動性の高い人では今後の安心と快適な生活を得るためにも手術を受けられた方が良いでしょう。

大動脈瘤の種類によるおよその治療法

大動脈は心臓とのつなぎめから上行大動脈、弓部大動脈、下行胸部大動脈、腹部大動脈の順に名前が変わり、その位置により、胸部大動脈瘤(上行大動脈瘤、弓部大動脈瘤、下行胸部大動脈瘤)、胸腹部大動脈瘤(横隔膜の位置をまたいで胸部と腹部にわたる大動脈瘤)、腹部大動脈瘤があります。

治療は手術が必要で、人工血管で瘤になった部分の大動脈を取り替えます。その場合、大動脈を遮断する必要がありますので、その際、重要臓器がかかわっている部位とそうでない部位により手術の複雑さが違ってきます。すなわち心臓を止める必要がある場合と必要ない場合、脳や脊髄、内臓などの重要臓器には常に血液を送る必要があるので、その場合とそうでない場合により手術が複雑な部位と単純な部位があります。具体的には胸部大動脈瘤と胸腹部大動脈瘤は人工心肺を使い、上行大動脈瘤、弓部大動脈瘤は心臓を停止させ、かつ弓部瘤では人工心肺で頸動脈から脳へ血液を送ります。下行胸部、胸腹部大動脈瘤は人工心肺を通常用いますが、心臓は停止させません。腹部大動脈瘤は人工心肺を使用する必要はなく、手術を行います。

治療結果は?

胸部大動脈瘤では、特に弓部大動脈で脳梗塞の合併症が深刻です。大動脈瘤ではその内面に粥腫や血栓が付着しており、これらが人工心肺の管から頸動脈に流れ込み脳梗塞を発生させます。心臓の手術と同様に空気が入り込み脳梗塞を発生させる危険性もあります。脳梗塞の結果、意識障害や麻痺を発生しますが、その重症度は様々で脳梗塞の大きさによります。広範囲の場合は意識が戻りません。反回神経麻痺も厄介な合併症です。大動脈を巡って左反回神経という左の声帯にゆく神経があり、これはちょうど弓部大動脈の縫合部に近接しているため損傷されることがあります。弓部大動脈瘤が大きくなってこの神経がすでに傷害されている場合もあります。声帯が閉じないためかれ声になり、肺の空気がいつも漏れるため話をすると息切れを起こします。下行胸部大動脈瘤は比較的合併症の少ない手術です。

手術後30日以内になくなった場合に手術死亡といいますが、手術死亡率はいずれも5%前後で、患者さんの手術前の元気さや合併疾患の有無などによります。

大動脈解離

大動脈の壁が内外に避けて大動脈が2連銃型になってしまう急性発症する病気で、死亡率が高く、心筋梗塞と誤診され易いことから、最近、一般にも知られてきた病気です。死因が心タンポナーデという心臓を包む袋(心嚢)に裂け目が破裂して出血し、袋の出血が圧迫して心臓を動けなくする病態で、急死します。そのため大動脈解離の診断がついてその可能性が確かめられたら夜中でも日曜でも直ちに手術をして心タンポナーデを食い止めることが救命のための必須の治療となります。一刻を争うことになります。

ステントグラフト留置術とは?

大動脈瘤は、主に動脈硬化年齢層になり大動脈が年と共にもろくなってきて、部分的に膨らんできて、突然破裂して大量出血し、急死する恐ろしい病気ですが、自覚症状がないため患者さんの多くはなかなか恐ろしさを自覚せず、大手術をしたがらない傾向にあります。そのため手術以外の方法で治すことが考えられるようになりました。すなわち胸やお腹を開ける手術ではなく、鼠径部を小さく切開するだけで動脈瘤が破裂しないように人工血管を裏打ちする方法です。動脈瘤の形によりできない例もあり得ますが、胸部大動脈瘤から腹部大動脈瘤まであらゆる領域の動脈瘤に対し使用されるようになっています。

発展の歴史

アルゼンチンの血管外科医パロディー先生が1991年に発表した方法です。その後改良が加えられ製品化されましたが、要は金属で裏打ちした薄手の人工血管を小さく折りたたんでカテーテル(管)の中に仕込み、そのカテーテルを鼠径部の動脈から挿入して大動脈瘤の内側まで進め、仕込んである人工血管を動脈瘤の内腔に押しだします。人工血管の内側には金属のスプリングがついており、こうもり傘のように血管の中で自動的に開きます。それによって動脈瘤が裏打ちされる仕組みです。この方法は最初に腹部大動脈瘤について研究・開発が進み、欧米では10年前から既に確立された治療法になっています。最近では胸部大動脈瘤についても多くの治療報告が成され、手術では10時間もかかる例が、1時間程度で終わるといる画期的な発展を遂げています。

ステントグラフトは、欧米はもとよりアジアを含む世界中では10年以上前から人工血管などと同様に製品として販売され、広く普及していきました。一方、日本では、医療費抑制のあおりで、なかなか厚生労働省が輸入および患者への使用許可を与えず、平成19年になってようやく腹部大動脈瘤(図60-a)に対するステントグラフトの使用許可がおりました。およそ10年の医療空白を生じています。

図60-a


どのような方に使用できるか?

手技の容易さに比べステントグラフト製品が日本では極めて高価(130万円)なため、学会で一定の基準を満たした施設、認定医のみに実施・使用許可がおりており、当科は実施可能施設のひとつです。最近は、手術よりもステントグラフトを希望される患者さんが少なくありませんが、医療費抑制のもと厳しい使用制限があり、高齢者や手術に耐えられない条件の方、お腹を開ける手術が困難な方など、通常の手術では何らかの困難を伴う場合にのみ保険で認められています。

実施方法

ステントグラフト留置術は動脈瘤の形状によりできない例があり、適応条件が決まっていますが、胸部大動脈から腹部大動脈瘤まで可能です。方法は薄手の人工血管に金属で裏打ちした薄手の人工血管を小さくたたんでカテーテル(管)の中に仕込み、そのカテーテルを鼠径部の動脈から挿入して大動脈瘤の内側まで進めて仕込んである人工血管を動脈瘤の内腔に押しだします。人工血管の内側にはこうもり傘のように金属のスプリングがついており血管の中で自動的に開きます。それによって動脈瘤が裏打ちされる仕組みです。この方法は主に腹部大動脈について欧米では10年前から既に確立された治療法になっていますが、胸部大動脈瘤についても既に多くの治療が成されています(図61-a,b,c,d)。平成19年からようやく日本でも腹部大動脈瘤に対するステントグラフト製品が認可され、学会で一定の基準を満たした施設、認定医のみが実施可能です。当院でも実施可能ですが、高齢者や手術危険因子の高い方への保険適応のみ認められています。両鼡径部に3cmほどの小さな創から、カテーテルを挿入して、Y字型のステントグラフトを連結させることにより動脈瘤を閉鎖します(図62-a,b)。手術侵襲が少ないので翌日から歩行可能で、3日から7日間で退院が可能です。今後、日本でも動脈瘤の主要な治療手段として普及していくと考えられます。

図61-a 図61-b 図61-c 図61-d 図62-a 図62-b


血管の病気に関するお問い合せ・連絡先
第一外科教授 笹嶋 唯博
tel.0166-68-2490 fax.0166-68-2499
e-mail:sasajima@asahikawa-med.ac.jp

毎月一回東京新宿石川病院にて血管外来を診ていますので
ご希望の方は、上記へご連絡下さい。

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