足を切断から救う〜あなたが拒絶しない限り切断されます
切断に至る過程
膝下や膝上の切断は現在世界中で行われています。その多くは、救肢できるのに切断されていますが、事情は、日本と欧米では若干の相違があります。日本では血管外科医の技術レベルが低いため難しいバイパス手術ができない一方、内科医の多くはバイパス手術の有効性を理解せず、壊疽になったらいきなり整形外科を紹介します。整形外科医は切断を商売にする医者ですので、紹介されたらそれ以外は考えません。患者さんが切断を拒否しない限り、整形外科医は、同意が得られているものとして、切断に向けて準備をし、切断を完了します。患者さんは、内科医の言われるままに整形外科を受診し、あれよあれよという間に切断されてしまうわけです。この過程では誰がもっとも悪いのかわかりません。切断の主犯はいません。あなたが拒絶しない限り切断されます。
欧米と日本の違い
医師の報酬は日本では病院が支給し、手術の数とは関係がありませんが、欧米の場合、外科医の報酬は保険から手術1例当たり15万円位支払われます。これは切断とバイパス手術で大きな相違がないため、時間のかかるバイパス術より1時間以内に終わる切断術をたくさん行って自己収入を増やそうとします。バイパスでも3時間以内の手術が多く、簡単な例を選択し、実施される傾向にあります。日本は簡単な手術でも困難な手術でも外科医個人の収入は同じです。そのため欧米では行われないような長時間に及ぶ手術も積極的に実施され、簡単な手術を選ぶようなことはありません。
どんな時切断が必要か
切断をせざるを得ない場合はあります。足が壊疽になり、炭のように黒くなる。その範囲が足首を越えた時は、踵を救えませんので、切断となります。壊疽が感染して、感染が足首を越えた時も、バイパスができない場合には膝下切断になります。
血行障害があるとなぜ膝上か膝下で切断するのか?
壊疽(図50)や何週間もあるいは数か月も治らない潰瘍(図51-a)は、その部分だけ切断してしまえば足趾が多少短くなっても早くよくなるように思われがちです。しかし血行障害のある足を切断した場合、その傷は治らず、1〜2週後には開いてしまい、さらに大きな傷ができます(図51-b)。さらに上で切ってもまた開きます。結局、切断は膝下か膝上で切断するしかありません(図52-a,b)。膝下や膝上の切断を大切断といいます。大切断は通常は整形外科に委ねられますが、整形外科ではできるだけ一回の手術で切断端を直そうとするため十分血行の良いところまで切断の位置を高位にとります。太ももの動脈(大腿動脈)が閉まっている場合は膝上切断となり、この頻度は少なくありません。
切断術は血管移植手術より安全か?
手術時間は短くてもこの大切断も一回の手術です。全身麻酔をかけ手術をするので、手術危険率は同じです。飛行機と同じで、飛行距離が短いからと言っても離陸と着陸過程は一回ずつ必ずあるので、墜落の危険性は長距離飛行とあまりかわりがないのと似ています。実際、大切断手術がもとで1か月以内に亡くなる率は20%といわれています。
切断して義足で歩けるようになるだろうか?
老人の膝上切断では歩くことは不可能です。一方、膝下切断では義足による歩行訓練(リハビリテーション)を行います(図52-c)。これは若い人で3か月、70才以上では6か月はかかります。それでも歩けるようになればよいのですが、予定どうりに進まないことが起きてきます。切断しても、もともとの閉塞性動脈硬化症という病気が終結するわけではありません。このような動脈硬化の病変は、全身の動脈にありますが、足では対称性に両側にあることが多いため(図52-d)、6か月もしない間に反対の足にも同じような虚血性潰瘍や壊疽ができてきます。結局、片方が切断されてその歩行訓練中に反対側の足も同じ状況になり、結局は歩き始める前に両足大切断の危機が訪れます。両足を切断した老人(70才以上)は最早、自力で歩行することはできません。今ひとつの問題は、切断した側の足も血行障害がありますので、義足による圧迫がもとで新たな潰瘍をつくってきます。切断端に潰瘍ができますと、結局、その潰瘍が痛くて義足をつけられず、数週間かかって潰瘍が治ったとしてもまたできますので、結局、義足をつけられずに車いすか寝たきりになります。
切断すると長生きできない
切断により足は使わなくなれば血液の流れが少なくなります。全身の活動性が低下すると、切断した足はもとより、残された足も、脳も心臓も血流が少なくなります。こうなると動脈硬化がさらに進行し、しかも動脈硬化の血管内面は粥腫が顔を出して血の塊(血栓といいます)が沈着し易くなっており(図53)、血流の減少はある時突然広い範囲に血栓をつくって動脈を閉まらせます。こうなると急性血栓症といって多くは命を失うことになります(図54)。デンマークにおける大切断を受けた2880人の調査では4年25%が亡くなり、40%が反対足の切断あるいは切断した側のさらに高位の再切断を受けており、一回の切断だけで4年間を過ごせた人は36%に過ぎなかったと報告されています。別の報告では、下腿切断を受けた患者が2年後には、15%の人が、反対の足の切断を受け、さらに15%は膝上の再切断となっていますが、問題は30%の人が亡くなっているということで、これは大腸癌の死亡率を上回っています。これらのことは、「片足にできた小さな潰瘍・壊疽でも切断しないでそれをしっかり治さなければやがては両足を失い、さらには命を失う」と言うことを明示しており、「切断したら長生きはできない」ということを知らねばなりません。下肢大切断は血行障害のある足に対する治療ではありません。
バイパス手術(血管移植手術)が不可能な例はありません
バイパスは手術の時点で生きている組織、足、趾を救済します(図55a,b,c,d)。広範壊疽で、足の半分以上が壊疽になっていても踵が死んでいなければそこまで救済できますので、自力歩行は可能となります。同じ一回の手術ならば元通りに歩けるようになる治療を選択すべきです。バイパス術は無論、既に壊疽に陥って黒くなった組織は助けられませんし、広範囲の壊疽では、壊疽を除いた部分を閉鎖する2次手術も必要です。傷がふさがって靴が履けるようになるまでは2〜6か月を要しますが、その苦労のかいは十二分にあります。
術前準備は?
下肢に閉塞性動脈硬化症(粥状硬化症による動脈閉塞症)があると、およそ50%の患者さんで心臓の動脈(冠動脈という太さ2〜3mmの血管が心臓を栄養する)にも同様の閉塞病変が発生し、狭心症や心筋梗塞の原因となります。また脳の動脈には25%の人で病変を発生し、脳梗塞を合併します。これらはいずれも急死の原因となりますので、足の動脈の手術が必要となったら頭の内、外の動脈狭窄の検査、心臓に狭心症が隠れていないかどうかなどを調べます。足が腐り初めて急速に悪化している場合は、足が手遅れになるのでこれらを省く場合もあります。当然、心臓や脳に動脈狭窄病変が隠れている可能性があり(図29, 図30-a,b,c)、その場合は手術の危険性は増します。
血行障害を改善させる治療:バイパス手術とは?
血行障害により潰瘍や壊疽がある場合は、切断を免れるためバイパス手術が必要です。バイパス術は下肢内側の皮下を長く走っている静脈を取り出して、大腿動脈から足関節周囲の動脈までにおよぶ長い血管移植をする必要があります(閉塞性動脈硬化症の項参照、図15-c, 図28-d)。これよりも短く、膝までのバイパスでは、効果が無く、一旦よくなっても2〜3年で再発し、バイパスは役立たなくなります(図31)。このバイパスに人工血管を用いた場合は、すぐつまって役立たなくなりますので使用しないのが原則です(この領域の人工血管の5年開存率は平均15%です)。バイパス術が成功すれば壊疽足は劇的によくなります。通常、潰瘍はバイパス術のみで自然によくなりますが、壊疽足に対しては、初回にバイパス術、二回目に壊疽部分切除術の2回の手術が必要です(図28-e,f)。足が腐っていて大切断になりそうな場合で、心臓も悪い時は心臓と足の手術を同時におこないます(図32)。
手術の効果は?
糖尿病性閉塞性動脈硬化症100人にこのようなバイパス術を行い, 移植した血管の5年開存率は85%です。糖尿病の無い閉塞性動脈硬化症に対するバイパスに比べて少し結果がよくありませんが、これは、糖尿病のある方では、動脈硬化が進行しやすく、それに対する追加手術が行われることによります。血糖のコントロールが悪い人や運動療法をしない方に起こりやすいことは明らかですので、その意味でも適切なバイパス術を受けて下肢の運動機能をより早く、健康にして、快適な日常生活を取り戻すことが大切です。
血管の病気に関するお問い合せ・連絡先
第一外科教授 笹嶋 唯博tel.0166-68-2490 fax.0166-68-2499
e-mail:sasajima@asahikawa-med.ac.jp
毎月一回東京新宿石川病院にて血管外来を診ていますので
ご希望の方は、上記へご連絡下さい。


図50
図51-a
図51-b
図52-a
図52-b
図52-c
図52-d
図53
図54
図55-a
図55-b
図55-c
図55-d
図29
図30-a,b
図30-c
図15-c
図28-d
図31
図28-e
図28-f