概要
本症は上腕神経叢と鎖骨下動・静脈が胸郭出口領域の狭隙部を通過する際に、前・中斜角筋および第一肋骨間で斜角筋や骨の付着や形態異常、先天的異常筋・線維束の介在などの解剖学的異常により過度に圧迫されて神経症状や血行障害を発生する病態である。
1.分類と病因
圧迫部と症状により神経性、動脈性、静脈性の3型に分類される。また原因により様々な分類がなされている(表)。神経性はRoosの分類が有名で13630例の経験から上腕神経叢上部圧迫型upper plexus involvement type(C5,C6,C7)と下部圧迫型Lower plexus involvement type(C8,T1)に別け、前者は斜角筋や異常線維束など異常軟部組織による圧迫形態からさらに5型に分類された:1型前斜角筋由来線維束の神経への癒着;2型前中斜角筋間の異常線維束の介在;3型前斜角筋の上腕神経叢間へ介入しC5,6を前方に圧排;4型前中斜角筋の癒合;5型前斜角筋の後方で垂直に走る異常線維束による上腕神経叢の圧迫。このほかscalene minimus muscle(scalenus pleuralis:前斜角筋異常分束が上腕神経叢C7-8間に介入)も重要である。
| 先天性骨異常(保有率10%) | 頸肋 |
|---|---|
| 第7頸椎横突起異常 | |
| 第一肋骨異常 | |
| 先天性軟部組織異常(保有率7%) | 前斜角筋付着異常 |
| 中斜角筋付着異常 | |
| 斜角筋癒合 | |
| 斜角筋肥大 | |
| 最小斜角筋scalenous minimus(保有率50%) | |
| 異常腱・線維束 | |
| 上腕神経叢形成異常 | |
| 後天性骨異常 | 第一肋骨/鎖骨などの骨折 |
| 胸郭出口症候群術後:第一肋骨・異常骨切除不足、手術後瘢痕 | |
| 腫瘍 | |
| 斜角筋外傷 |
動脈性は病期により1期圧迫狭窄、狭窄語拡張;2期動脈瘤形成、内皮傷害、血栓形成;3期血栓症、塞栓症の3期に分類される。90%以上で頸肋や第一肋骨異常、外傷などを合併しそれに付着する異常靱帯により圧迫される。
静脈性TOSでは前斜角筋付着異常、scalenus minimus、小胸筋、頸肋などが原因となっている。鎖骨下−腋窩静脈血栓症はPaget-Schroetter syndrome(1949)やeffort thrombosis(1960)などといわれる一次性とカテーテル挿入などに伴う二次性に分けられるが、一次性は静脈性TOSとされる3。
2.頻度
神経性TOSが最も多く、80%を占め4、20-50才台にみられ、70%は女性である。頸肋は0.5〜1.5%にみられる先天性骨異常であるが、その4.5%は神経性TOSを発症する。動脈性TOSは3.5%と稀であり、その30%は神経性TOSを合併する。静脈性TOSは16.5%で、鎖骨下〜腋窩静脈血栓症の病因の25%を占める。
病理・病態生理
上腕神経叢と鎖骨下動・静脈が胸郭出口outlet(静脈では入り口inlet)領域を通過する時には解剖学的に3カ所の狭い間隙をくぐり抜ける:1)scalene triangle;前斜角筋、中斜角筋、および第一肋骨より形成される三角間隙;2)costoclavicular space第一肋骨−鎖骨間間隙;3)pectoralis minor space小胸筋−肋骨間間隙1。上腕神経叢や鎖骨下動が3角間隙を通過する際、先天的骨異常、異常靱帯、線維束、斜角筋付着異常、後天的には骨、筋肉の外傷などが原因で圧迫されて、神経症状や虚血症状を発生する。圧迫に関与する代表は斜角筋であるが、先天的骨異常では頸肋(保有率1%)で、これに軟部組織異常が加わって種々の圧迫形態を成す。静脈は2)、3)以外に1)も関与し、この場合は前斜角筋前方、肋鎖靱帯、鎖骨との間で圧迫される。
臨床所見
1.臨床症状
神経性は全上腕神経、尺骨神経、正中神経障害の順に多く、上肢の疼痛、知覚異常、しびれ感、倦怠感・無力感・脱力感(手に持っているものを落とす)などの症状が特徴である。他に菱形筋や僧帽筋の圧痛、疼痛(肩、背中の痛み)、後頭部痛(70%)などを訴える。小胸筋による圧迫では同部に圧痛がある。
動脈性は1期では無症状であるが、2、3期になると上肢動脈圧の低下によりレイノ−現象Raynoad phenomenonが誘発され、半数以上で上肢claudication、指壊疽、急性重症虚血などで発症する。
静脈性は鎖骨下静脈急性閉塞により上肢静脈高血圧症の症状を示し、急速な腫脹、疼痛、緊満感を訴える。
2.合併症
動脈性TOSでは狭窄後動脈拡張postostenotic dilatationから動脈瘤を形成し、壁在血栓由来の手動脈塞栓症により手指壊疽を発生する。神経性では稀に手指の筋萎縮を来す。静脈性では12%で肺塞栓症を合併するので注意を要する3。
検査所見
1.一般検査・理学検査所見
胸部X線撮影による頸肋、第一肋骨先天異常、第一肋骨や鎖骨外傷後の異常などを診断する。神経性では頸椎椎間板ヘルニア(C5,6)を除外するため頸椎MRIが必要である。上肢の神経伝達速度や筋電図などは有用性が低い。
理学検査には斜角筋に沿う圧痛(Spurling’s test)、狭窄を増強させるアドソン試験Adson’s test(坐位で上肢を下げ、深呼吸で息を止め、顎をあげて患側を向くと患側橈骨動脈拍動が消失する)、90度外転—外旋試験(Roos’test;患側上肢を挙上、外転する、同上)、3分間上肢挙上運動負荷試験(Roos’test)、上肢上腕神経叢緊張試験などがある。これらにより上腕神経叢や鎖骨下動脈が圧迫されて疼痛や倦怠感の再現、増強をみる。動脈性では橈骨動脈拍動が減弱、消失し、閉塞位で上肢の高度の倦怠感を訴え、手は蒼白となり、閉塞位解除後は反応性充血で発赤する。その際、狭窄の増強に伴い鎖骨上、下部で血管雑音の出現、増強をみる。
2.血管造影
動脈性では大腿動脈からのカテーテル血管造影により外転位で鎖骨下動脈の狭窄・閉塞の再現、狭窄後拡張(1期)、動脈瘤(2期)などを診断する。しかし神経性TOSの診断には役立たない。静脈性はMRAやCTよりも静脈造影が必須である。その場合撮影肢位が大切で、上肢外転位で撮影し圧迫、閉塞を証明する。
3.生検所見
神経性TOSの斜角筋生検では筋細胞の萎縮、それに伴う筋線維周囲結合織の肥厚、type 1 fiber(slow fiber)に比べtype 2 fiber(fast fiber)の顕著な減少などがみられる。動脈性TOSでは2期以降は顕著な内膜障害を来し血栓性となる。
診断
確定診断は臨床症状、病歴および理学所見が最も重要である。血管造影は必要により追加する。Adson’s testによる動脈拍動の減弱は正常人でも約半数近くで陽性を示すので、これのみで確定診断はできない。外転試験や斜角筋、肩胛骨縁の圧痛などが重要であり、総合的に診断する。
治療
成長、筋肉の発達や肥満など体形の変化により症状が軽快するので軽症例では経過観察する。また保存的治療として体操がある。症状の強い例は合併症を生むので外科治療の適応である。手術の基本は第一肋骨および異常骨完全切除、第一肋骨付着部の前斜角筋切除、異常筋・靱帯・線維束の切除である。術式は腋窩と鎖骨上到達法がある。前者は美容上の利点が大きいが、視野が制限され異常線維束の術中検索に不利である。肋骨のみを取る方法は圧迫解除が不十分で再発率が高く現在は行われない。鎖骨上到達法は鎖骨に平行に鎖骨上に7〜8cmに手術創ができるが良好な視野が得られ手術の確実性が高い。
- Stoney RJ, Cheng S: Neurothoracic outlet syndrome. Vasvular Surgery. 4th ed. Rutherford RB ed. WB Saunders Co. Philadelphia. Pp976-992,1995
- Roos DB: The place for scalenectomy and first-rib resection in thoracic outlet syndrome. Surg 1982;92:1077-1085
- Hurlbert SN, Rutherford RV: Subclavian-axillary vein thrombosis. Vasvular Surgery. 5th ed. Rutherford RB ed. WB Saunders Co. Philadelphia. Pp1087-1093, 2000
- Makhoul RG, Machleder HI: Developmental anomalies at the thoracic outlet: An analysis of 200 consecutive cases. J Vasc Surg 1992;16:534-545


